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BIG BLUES八千代ベイ東京 vs JAL WINGS訪問記 プロメテウス火山の麓で(田村)

2025年10月5日、日曜日、舞浜。
目的地は夢の国ではなく、緑のフィールド。
トップイーストリーグCグループ、BIG BLUES八千代ベイ東京対JAL WINGS戦@ブリオベッカ浦安競技場、自身初のラグビー現場である。

ゲームの模様はこちら!

この機会を与えてくださった谷口代表、そして何より、僕のような新参者を受け入れてくださったビッグブルーズ八千代ベイ東京様に、まずは心からの感謝を捧げたい。
今日の舞台は、トップイーストリーグCグループ、ビッグブルーズ八千代ベイ東京対JAL WINGSの一戦。
YouTube配信、そして現地会場にも流れる場内実況。

目の前にはグラウンドが広がり、その向こうには、ディズニーシーの象徴、プロメテウス火山が鎮座している。
後に試合中、この火山は本当に火を噴き(花火)、非日常的光景の中ラグビーが行われるという忘れがたい記憶を刻み込むことになる。


このどこの馬の骨ともわからぬ実況とコンビを組んでいただくこととなった解説は、元日本代表の斉藤祐也さん。
私が大学在学中、ラグビー界を席巻していたのが斉藤祐也さん率いる明治だった。
ナンバーエイトのポジションから放たれる圧倒的なフィジカリティとスピードとリーダーシップ。
早明戦では1年から4年まで出場し、4戦4勝。蹂躙の限りを尽くされた。
そのレジェンドが今、隣に座ろうとしている。

私ごときが影も踏めないような存在と、なぜか肩を並べてしゃべってしまう。
この仕事をしていると時折訪れる、現実感を失う瞬間。
冷静に、俯瞰で自分を見ると、毎日とんでもなく怖いことをやっているのだと。
私はラグビーを学ぶ「生徒」になった。

目の前に現れた斉藤祐也さんは、記憶の中の「蹂躙者」のオーラとは全く違う、気さくで穏やかな空気をまとっていた。


(右・吹きすさぶ潮風に、ヘアスタイルがアバンギャルドな感じになった斉藤祐也さん。)

屋外の実況は戦場だ。
湾岸の風は想像以上に強く、用意した資料の束が何度も宙を舞おうとする。
屋内での実況の感覚でバサッと広げたコピー紙は、あっという間に風に煽られ、押さえるのに必死になった。
クリアファイルを準備すべきだったか?
ラグビーは屋外での試合がザラだろう。
百戦錬磨の実況者たちは、この風とどう戦っているのだろうか。
そもそも、資料にいちいち目を落としながら喋るような世界観ではないのかもしれない。

次に、暗さと遠さ。
秋、18時、日が暮れたフィールドは想像以上に暗く、選手の背番号を肉眼で識別するのは困難を極めた。
マイクは指向性が極めてシビアで、少しでも口元から離すと声を拾ってくれなくなる。
風の音に負けじと声を張りながら、マイクは口元にくっつけておく。
資料は風で飛ばないように、遠いグラウンドとモニターを交互に見ながら、隣のレジェンドに的確な質問を投げかける。
実況道は、道険し。


このトップイーストリーグというカテゴリーの最大の魅力は、選手たちとの距離の近さにあるのかもしれない。
共同キャプテンの齋藤響選手。


チームの最終目標は、トップイーストBへの昇格。
そのために、春からコンタクトとハンドリングを徹底的に鍛えてきた。
個人としては、チームのために走り続ける『ワークレート』を見てほしい――

彼の言葉は力強い。
だが、僕が最も心を揺さぶられたのは、ラグビーと仕事の両立について尋ねた時だった。

「普段はメーカーの営業職をしています。
週5日働いて、平日の夜になんとか時間を作って集まり、土日に集中して練習する。
両立のコツは、普段から職場に『自分はラグビーをやっているんだ』ということを周知させておくことですね。
『今日は早く上がらせてもらってもいいですか』とお願いした時に、『おう、ラグビー頑張ってこいよ!』と快く送り出してもらえるような関係性を、日頃から作っておくことが大事なんです」

華やかなリーグワンの世界とは違う、しかし、だからこそ尊い、生活者としてのアスリートの姿。
最後に彼は、こぼれ話として「プロップの笠巻晴太選手は、試合前に必ず歯を磨くんですよ」と教えてくれた。
その屈託のない笑顔に、チームの風通しの良さを感じた。

次に話を聞いたのは、スタンドオフの木村聖大選手。
前の試合で劇的なサヨナラペナルティゴールを決めた立役者だ。「ここ最近で一番気持ちいい思い出でした」


彼との会話で興味深かったのは、自身が熱心なラグビー中継ファンだということ。
「僕はJ SPORTSっ子だったんですよ。村上晃一さん、藤島大さん、小林深緑郎さん…解説者の名前まで覚えちゃうくらい、ずっとテレビにかじりついていました」

最後にマイクを向けたのは、プロップの栗畑悠馬選手。
このチームの重要な核をなす東洋大学出身者の一人だ。
BIG BLUESには、近年力をつけてきた東洋大学のOBが続々と集まってきているという。

「大学を卒業する時、競技を続けるか迷う選手は少なくないんです。
そういう選手たちの『受け皿』に、このチームがなりたい。
一度ラグビーから離れても、また本気でやりたくなった時に戻ってこられる場所がある。
それがこのチームの価値だと思うんです」

彼の言葉は、トップイーストリーグの存在意義そのものを物語っていた。
東洋大学が強くなるにつれて、有望な選手は上のカテゴリーからスカウトされる。
それは喜ばしいことであると同時に、全員がプロになれるわけではないという現実も突きつける。
その狭間で揺れる若者たちにとって、BIG BLUESはラグビーを続ける希望となる。

実況席からグラウンドを見下ろしながら、僕は改めてこの「トップイーストリーグ」という世界の深さに思いを馳せていた。

ジャパンラグビーリーグワンには、ディビジョン1から3まである。
そのさらに裾野に広がるのが、このトップイーストリーグだ。
A、B、Cとグループ分けされている。
リーグワンの頂点を1番目とするならば、ここは6番目に位置する階層だ。
しかし、そこに序列の冷たさはない。
むしろ、カテゴリーが下がるほどに、ラグビーという競技そのものへの純粋な愛情と、ひたむきな熱量が凝縮されているように感じられる。

BIG BLUES八千代ベイ東京。
その前身は、かつてトップリーグに在籍した強豪、日本IBMビッグブルー。
しかし、企業の強化中止という非情な決定が下される。
多くのチームが辿る、悲しい運命。
だが、彼らは選手たち自ら立ち上がり、クラブチームとしてチームを再生させたのだ。
しかし、苦難は続く。
練習の拠点だったグラウンドが売却され、チームは存続の危機に瀕した。

この危機を救ったのが、かつてBIG BLUESに所属していた下村健さんだった。
彼は法人を立ち上げ、代表理事、監督、そして選手という、何足の草鞋を履いているのか分からないほどの超人的な役割を一身に背負った。
グラウンドを失ったチームは、江戸川区や浦安など、港湾地域を転々としながら練習を重ねたという。
現在のチーム名にある「ベイ」の二文字には、その苦しい時代に手を差し伸べてくれた港湾地域への感謝が込められているのだ。

対するJAL WINGSもまた、個性的な集団だ。
空港勤務、営業、予約、グラウンドスタッフなど、JALという巨大組織を支える様々な職種のプロフェッショナルたちが、ジャージを着てフィールドに立つ。
昨シーズンのCグループ王者であり、航空会社チームが集う世界大会で優勝した経験も持つ。

仕事とラグビーを両立させる生活。
それは、両チームに共通するアイデンティティだ。
週5日働き、家族との時間や休息を削って練習に集う。
その先に、この日曜日の試合がある。
驚きと意外性に満ちた選手たちがひしめくトップイースト。
ここは、ラグビーエリートだけではない、多様な人生が交錯する舞台である。

この日は「千葉ダービー」と銘打たれていた。八千代を拠点とするビッグブルーズと、浦安を拠点とするJAL WINGS。
千葉の覇権をかけた戦いでもある。
八千代の大地にしっかりと根を張る者たちと、空の王者が、今日は舞浜の制海権をかけて戦う。
スタンドにはブルーのBIG BLUESTシャツでそろえたファンが大集合し、選手の家族であろう子供たちの声援が響く。
この温かく、そしてどこまでも真剣な空気がフィールドを満たしている。

ハーフタイムには、キッチンカー「さるや」さんからフランクフルトの差し入れをいただいた。
この手作りの温かさもまた、トップイーストリーグの魅力なのだろう。

11月にもう一度、今度は八千代のホームグラウンドで、斉藤さんとコンビを組ませていただく機会を得た。
BIG BLUESと弊社もこうして絆をだんだん太く長くなっていけたなら。
地域と密に寄り添うBIG BLUES、に寄り添うSports Zone、そこからなにか面白いことを始められたらこれ以上の喜びはない。

(BIG BLUES 八千代ベイ東京 Instagram)
https://www.instagram.com/big_blues_rugby/p/DPdyE0Yj5jX

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田村純アナウンサー