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夕陽に溶けたトライ(田村)


12月13日、14日、この2日間、熊谷ラグビー場A・Bで、関東ラグビー大学対抗戦、リーグ戦、それぞれの入替戦の実況をJSPORTSオンデマンド配信にて担当させていただきました、田村純と申します。

ラグビーの聖地・熊谷で行われた関東大学ラグビーリーグ戦1部2部、対抗戦A/Bグループ入替戦、日本大学 対 中央大学、そして立教大学 対 武蔵大学、未来を懸けて激突した4チームの、二つの物語を振り返っていきたいと思います。

入替戦、独特の空気があります。
「天国と地獄」1年間の努力が、たった80分で天国にも地獄にも変わる。
その残酷さと美しさが、熊谷の冬空の下に凝縮されていました。
この入替戦が、この世代、最後の試合になります。
4年生にとっては大学最後の試合となります。
4年生は後輩に残せる、チームに残せる最後のもの。
そして後輩にとっては、先輩の背中を追って戦える最後の試合でもあります。

まずは、12月14日に行われた「関東大学対抗戦A・Bグループ入替戦」、立教大学 対 武蔵大学の一戦です。
「伝統の死守」か「悲観の初昇格」か。
対抗戦Aグループ全敗で苦しみ抜いた立教大学と、Bグループ全勝で勢いに乗る武蔵大学。
立教が2020年から続けてきた6シーズン守ってきたAグループの座を守るのか。
武蔵大学が創部以来初のAグループ昇格となるのか。
創部67年、対抗戦加盟39年。
2017年以来2度目の入替戦。
史上初のAグループ昇格を懸けた舞台へ上がってきた武蔵。
この一戦でありました。

前半は「Aグループの壁」をまざまざと見せつける展開でした。
立教は、負傷欠場した主将・白石和輝選手に代わりゲームキャプテンを務めたCTB佐藤侃太朗選手を中心に、実によく集中していました。
前半11分、WTB村上有志選手が先制トライ。
さらに18分にはFB大畑咲太選手が、38分には再び村上選手が快足を飛ばしてこの日2本目のトライ。
右のエッジ左のエッジ、立教がワイドな展開から前半だけで3トライ3ゴール、21対0。
武蔵大学にほとんどチャンスを作らせず、完璧な形で試合を折り返しました。

しかし、ここで終わらないのが入替戦の恐ろしさであり、武蔵大学の意地でした。
ハーフタイムを挟んで、緑のジャージが息を吹き返します。
後半開始早々の2分、武蔵13CTB遠藤悟選手のインターセプトからの12CTB山下裕太郎選手のキックパスでWTB西ヶ谷昴選手がトライ。
立教もすぐにモールで突き放しますが、ここからが武蔵の時間帯。
27分に再び西ヶ谷選手がサイドを破ってトライを決めると、その5分後にはHO尾池政人選手が潜り込んでトライ!
スコアは28-17。11点差。
熊谷の空気が一変し、「ひょっとすると…?」という予感がフィールドを包みました。

ただ、最後はやはりAグループで揉まれてきた立教の経験値が勝りました。
ロスタイムに武蔵HO尾池選手が執念のトライを返すも、最後は立教NO8中山英琥選手がダメ押しのトライ。
ノーサイドの笛と共に、立教フィフティーンからは安堵の表情がこぼれました。

関澤翔太新監督、白石和輝キャプテンのもと、『変わる、変える』立教大学、最後の最後に、変わらない確かなものを残し、花道とした4年生たち。
敗れた武蔵大学も、初のAグループ昇格は叶いませんでしたが、後半の猛追は見事でした。
「チームの雰囲気は非常に良く、自信に満ちている。今シーズンを振り返ると、技術的な課題はあったものの、選手たちが主体的に練習を組み立て、監督はそれを修正するサポートに徹した」(中馬監督)という武蔵大学。
強豪校出身のエリートだけでなく、全国区ではない学校からの選手が融合、監督の同期が指導する宮城県の佐沼高校などから、学業優秀で「素材の良い」選手が入部。
彼らが強豪校出身者に必死に食らいついていくことでチーム全体の底上げがなされたという中馬監督。
例年はそこに温度差ができがちなチーム内だが、今年は13番CTB遠藤悟(佐沼高出身)らが愚直に努力し、一体感が生まれたといいます。
武蔵大学が来季もまたBグループに旋風を巻き起こし、いつか大学史上初のAグループ昇格を勝ち取る日は遠くないことを予感させる、この日の戦いでした。

そして、その前日、12月13日に行われたもう一つの物語。
「関東大学リーグ戦1部・2部入替戦」、日本大学 対 中央大学。
見たものの記憶に永遠に刻み込まれる、まさに伝説の80分間となりました。
私自身、この緊迫度マックスの試合を熊谷の放送席でお伝えする機会を頂きました。
入替戦の枠をはみ出すような、タレント同士の魂のぶつかり合いでした。

歴史を紐解きますと、この関東大学ラグビーリーグ戦グループ、1967年、対抗戦グループから分かれる形で発足したリーグです。
その創設の中心となったのが、日本大学、中央大学、法政大学、専修大学、いわゆる日中法専。
リーグ戦の礎を築き、歴史を作ってきた盟友でもあり、永遠のライバルでもあります。

時代は流れ、勢力図が変わりましたが、しかしこの伝統ある2校が1部と2部の境界線で、その未来を懸けて激突したと。
これはリーグ戦の歴史と誇りを懸けた戦いでもあったというような、日中法専直接対決、日中戦でした。
ましてその1つ前の試合で専修が昇格を決めていましたしね。
なんと昨年リーグ戦覇者・大東文化大学を破っての専修大学、一足先に一部昇格を決めた、その直後のゲームでもありました。

試合は序盤から壮絶な点の取り合い。
前半、中央FB吉田晃己選手が2連続トライで主導権を握れば、日大もゲームキャプテンSO柏原慶太選手の突破からLO大宮碧海選手、そして1年生No.8尾形仁選手のトライで逆転。
しかし前半終了間際、今度は中央のトライ王SO須田龍之介選手がインターセプトから独走トライ!
22-19、中央リードで折り返すという、息つく暇もない展開。

後半も勢いは中央でした。
須田選手がこの日3本目となるハットトリックのトライを決め、残り10分でスコアは40対24。
誰もが、これで勝負あった、と思ったはずです。

しかし、ここから、この試合は伝説となっていく――
崖っぷちに立たされた日大が、信じられないような粘りを見せる。
後半33分に4年生PR中野慎之介選手が意地のトライ。
そしてロスタイム、自陣深くからまたしても1年生No.8の尾形選手がビッグゲイン!
これが起点となり、最後はFLマラカイ・ナワイカバカバ選手がトライ!
スコアは38対40!
しかしこの時点でロスタイム残り5秒と告げる加納レフェリー。
そして迎えた運命のロスタイム、後半45分。

日大が最後の攻撃。
ひとつの反則も許されぬ中アタックを継続させる。
ここでCTBサミペニ・オツコロ選手が、左サイドの裏へ絶妙なキックを転がす!

あの土壇場で、このキックを選択した1年生、オツコロ選手の冷静さと大胆さ。
開幕戦東洋戦でもチップキックからトライを演出した彼の非凡な才能が、最も重要な場面で再び輝きました。

その楕円球の軌跡が生み出した奇跡。
日大・佐川大樹が追う。守る中央11番・田積智陽が追う。
ボールは不規則にバウンドし、ゴールライン上へ…。
そこに倒れ込んでいたのが、日大WTB佐川大樹選手でした。
ボールは、まるで引き寄せられるように、彼の前に転がり、執念のグラウンディング!
逆転!劇的な、劇的なサヨナラトライとなりました。

これがラストプレーとなり、43対40。
日本大学が、まさに薄氷を踏む勝利で1部残留を決めたのです。

本当にラグビーの真髄が詰まった2試合でした。
その結晶のような日大と中大の最後のワンプレー、最後のトライでした。
ラグビーというのは改めて本当に全てのプレーに、これほどの痛みが伴い、そしてこれほどの気持ちを入れなければ成立しない競技なんだと改めて感じました。
その瞬間に至るまでの選手たちの想いの伏線を読み解き、その魂のぶつけ合いを伝えられたか。
課題はまだまだ山積みなんですが、この歴史的な2日間に立ち会えたこと、ただただ感謝しかありません。

「残留」という同じ結果で幕を閉じた二つの入替戦。
しかし、それぞれの一人一人の物語がありました。
痛みに満ちて、かくも美しい、ラグビーのドラマを、見せてもらいました。

傾いていく落日が、グラウンドに落とす影を日時計のように移ろわす十二月。
戦いの跡は黄金色に染まりただ残り香だけが伝える軌跡。
そのトライは夕陽の向こう側に溶けて、その面影は語り継がれる勇者の伝説となる。

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田村純アナウンサー