
第27回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会。
3月28日土曜日の熊谷ラグビー場は冬と春をまとめて追い越し
唐突に初夏さえ連れてくる陽光差し込むラグビー日和、
私の血圧も最高潮、カラカラに乾く口腔粘膜、
聞く人の耳まで動悸と息切れで小刻みに震わせるスペクトル、色褪せない春の記憶。
春の選抜は、胎動の場所。
まっさらな新チームが、その年のラグビー界の勢力図を書き換える最初の戦い。
その熱狂を言葉に乗せて届ける責任の重さ。
サブグラウンドでの試合直前の様子。
それぞれが高まる緊張感の中、最高の状態で試合に入っていくための調整を施すルーティーン。
そんな中ひと際見るものを圧するほどの領域を展開していた東福岡。
ほんの一分の隙さえ作ることはしないという強固極まる勝利への意志。
振り返ればすでにこの時、春の覇権を握ることは決していたのかもしれない。
キックオフの笛が響くと、目の前にあるのは、ただひたむきに楕円球を追う10代の情熱だけ。
肉体と肉体が軋む音。
スクラムの最前線で交わされる荒い呼吸。
バックスがラインを切り裂く時の、芝を蹴る乾いた音。
それらすべての熱を、いかに視聴者の耳元まで運べるか。
グラウンドに飛び交う選手たちの生の声。
言葉が追いつかないほどのスピード感、そしてノーサイドの瞬間に訪れる、勝者と敗者が肩を叩き合うあの静謐な時間。
まず忘れられないのは、準々決勝第1試合、國學院栃木と佐賀工業の一戦。
「5年連続の激突」國學院栃木・吉岡肇監督が語った「佐賀工は春の風物詩です」という言葉。
何度も壁として立ちはだかり、互いを高め合ってきたライバルへの最大級の敬意。
「デカい相手に勝つために、ちっちゃいのがタックルし続ける」。
平均体重で7キロ上回る佐賀工の重量フォワードに対し、國栃が愚直に体を張り続ける姿。
劣勢でもスタイルを崩さない國栃のプライドを表現する終盤の2トライ。
結果は佐賀工の勝利、伝統校の重みを全国に知らしめた、魂こもった熱戦。
続いて、第3試合の東福岡と大分東明。
九州の僚友であり、1ヶ月前の九州大会決勝の再現となったこのカードもまた、伝説的な一戦。
圧巻だったのは、東福岡のスタンドオフ・川添丈選手によるドロップゴール。
2試合連続のドロップゴールという離れ業は、東福岡の圧倒的な引き出しの多さと、個のスキルの高さを象徴する場面だった。
しかし、この試合を真の意味で「名勝負」にしたのは、大差がついた最終盤の大分東明の執念でした。
ロスタイムに入り、時計が35分を回ろうとする中、点差に関わらず攻め続ける大分東明。
最後まで勝敗を超えた、意地、気持ち、魂。
グラウンドの上で見せてくれた両チームの戦い。
そして、最後の最後に大分東明が繋いでトライをもぎ取った瞬間。
スコアシートには現れない、彼らがこの大会に残した足跡。
激しくぶつかり合った選手たちが、試合が終われば互いの健闘を称え合う。
ラグビーとは、単なる球技ではなく、人間の意地と敬意の物語。
私の実況が、彼らの人生の一ページを飾るに相応しいものだったかはわからない。
言い間違えも、言葉足らずな部分も多々あった。
あの日マイクを通して感じた熱量は、私の人生の原点になった。
春の選抜。
ここは終わりの場所ではない。
ここから、彼らの長い一年が始まる。
そして私も未だ道半ば。
